コラム:技能実習制度新提言~従来からどう変わる?~

技能実習制度はどのように変わっていくのか

令和5年の10月18日に第12回「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が行われ、最終報告書のたたき台が提出されました。今回はその中身について書いていきたいと思います。

出入国在留管理局ホームページ「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)」

なお、以前書いた『コラム:技能実習制度廃止!?~新制度設立へ~』の続きの記事になりますので、前回の記事に目を通していただけると、事の経緯が分かりやすいと思います。

では早速最終報告書の中身を見ていきましょう。


最終報告書の提言

最終報告書では以下の項目について提言が述べられています。

  1. 新制度及び特定技能制度の位置付けと関係性等
  2. 新制度受入れ対象分野や人材育成機能の在り方
  3. 受入見込み数の設定等の在り方
  4. 新制度での転籍の在り方
  5. 監理・支援・保護の在り方
  6. 特定技能制度の適正化方策
  7. 国・自治体の役割
  8. 送り出し機関及び送り出しの在り方
  9. 日本語能力の向上方策

では、簡単に要点をまとめていきましょう。

新制度及び特定技能制度の位置付けと関係性等

ここでは新しい制度の総論として以下の提言がなされています。

  1. 現行の技能自習制度を発展的に解消し、人手不足分野の人材確保・人材育成を目的とした新たな制度を創設する
  2. 新たな制度は未熟練労働者として受け入れた外国人を、3年間の就労を通じ特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指すものである
  3. 特定技能制度は人手不足分野において即戦力となる外国人を受け入れるとう現行制度の目的を維持しつつ、制度の適正化を図る
  4. 家族の帯同については、現行制度同様特定技能2号までは認めない
  5. 現行の技能実習制度で行われている企業単独型のものについては、既存の在留資格の対象拡大等により、新たな枠組みで受け入れることを検討する

新しい制度は特定技能1号へ進むためのステップとしての役割がより鮮明になった印象です。従来の技能実習制度は、あくまでも技術を本国に持ち帰って本国の技術発展に活かしてほしいというものでしたが、この提言では明確に特定技能1号へのステップであることが述べられています。

新たな制度の受け入れ対象分野や人材育成機能の在り方

  1. 新しい制度の受け入れ分野について、当然に現在の技能実習制度の分野を引き継ぐわけではなく、特定技能制度における「特定産業分野」に沿ったものとなる
  2. 育成面に関し、従来の技能実習よりも従事できる業務の幅を拡大し、体系的な能力を取得できるようにするため特定技能の業務区分と同一にする。また、当該業務区分の中で修得すべき『主たる技能』を定め育成・評価を行う
  3. 新たな制度で育成を受けたが、特定技能1号への移行に必要な試験に不合格になった場合には、同一の受け入れ企業での就労を継続する場合に限り、再試験に必要な範囲で最長1年の在留継続を認める

新しい制度では特定技能に沿った受入れ分野となります。また、『主たる技能』の評価は技能検定試験のほか、特定技能1号評価試験によって行うことも可能です。

受入見込み数の設定の在り方

  1. 新たな制度は現行の特定技能制度に考え方に則り、受入分野ごとに受入れ見込み数を設定しこれを上限数として運用する
  2. 受入見込み数は国内労働市場の動向や、経済情勢等の変化により柔軟に変更できる運用となる
  3. 受け入れ数は政府が判断する

日本人の雇用機会の喪失や、処遇低下を防ぐ観点から受入れ人数には分野ごとに制限がかけられます。

新たな制度における転籍の在り方

  1. 現行の技能実習制度における「やむを得ない事情がある場合」の転籍範囲を拡大かつ明確化し手続きを柔軟化する
  2. 本人の意向による転籍も可能とするが、人材育成の実効力を確保するために、同一受け入れ企業での就労期間が1年以上であることと、技能検定(基礎級)及び日本語能力試験(A1もしくはN5)に合格していることが条件となる
  3. 本人の意向による転籍の場合には、従前の企業が負担した受入れに係る初期費用の内、転籍後の企業にも負担させるべき費用については、両者の不平等が生じないよう負担割合を明確にした上で、転籍先企業にも負担させる措置をとる
  4. 転籍支援に関しては、監理団体が中心となって行うことにしつつ、ハローワークも支援を行う
  5. 転籍先の分野は現に就労している同一分野に限る
  6. 育成期間中に辞めて帰国した者については、新たな制度でのこれまでの日本での滞在期間が通算2年以下の場合に限り、新たな制度によりそれまでとは異なる分野での育成を目的とした再度の入国を認める

大きく変わった部分の一つです。

人材育成の実効性を確保するためにある程度のスキルを身に付けたことを証明する必要はあると思いますが、転籍できるようになり労働者の権利の側面が色濃くなりました。

監理・支援・保護の在り方

  1. 外国人技能実習機構を改組し、受け入れ企業に対する監督指導や外国人に対する支援・保護機能を強化し、特定技能外国人への相談援助業務を行わせる
  2. 労働基準監督署との相互通報の取り組みを強化し、重大な労働法違反事例に対して厳格に対応する
  3. 監理団体は許可要件の厳格化を行い、優れた監理団体には申請書類の簡素化や、届出の頻度軽減などの優遇処置を講じる
  4. 受け入れ企業へは、特定技能制度における要件も参照し、受け入れ企業としての適性性及び育成・支援体制等に係る要件を設け、優れた受け入れ企業には申請書類の簡素化や、届出の頻度軽減などの優遇処置を講じる

特定技能制度の適正化方策

  1. 新たな制度において育成がされた外国人の特定技能1号への移行については、技能検定3級以上または特定技能1号評価試験への合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)合格が条件となる。ただし、当分の間は日本語能力試験に代えて、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講した場合も日本語能力の条件を満たすものとする
  2. 登録支援機関の支援責任者等に対する講習受講を義務付ける等、登録要件を厳格化するとともに、支援業務の委託先を登録支援機関に限ることとする
  3. 優良な受け入れ企業等には申請書類の簡素化や、届出の頻度軽減などの優遇処置を講じる

新たな制度の創設により特定技能制度にも影響が現れます。特に今まで技能実習を修了すれば、技能と日本語能力ともに裏付けされているという扱いだったものが、両方の試験合格が条件となりました。移行処置はあるものの、技能実習の受け入れ企業はしっかりとした育成に力を入れなくてはならなくなります。

国・自治体の役割

  1. 地方出入国在留管理局、新たな機構、労働基準監督署、ハローワークなどが連携し、外国人の不適切な受け入れ、雇用を厳格に排除し、的確な転籍支援を行う
  2. 制度所管省庁は送り出し国と協力し、不適切な送り出し機関を確実に排除する
  3. 業所管省庁は業界団体と協力し、受け入れ対象分野の受け入れガイドラインの策定など、業界全体で受入れの適正化を促進するほか、相談窓口の設置、優良企業への優遇処置等を講じる
  4. 文部科学省は厚生労働省及び出入国在留管理庁と連携し、日本語教育機関の適正化を図り、日本語学習の質の向上を図る
  5. 地方自治体は、外国人受け入れ環境整備交付金を活用するなどして、外国人から生活相談等を受ける相談窓口の整備を推進する

送り出し機関及び送り出しの在り方

  1. 政府は送り出し国との間の二国間取り決め(MOC)を新たに作成し、送り出し機関の取り締まり強化をし、悪質な送り出し機関を排除する
  2. 政府は各送り出し機関が徴収する手数料等の情報公開を求めるなど、送り出し機関の透明性を高め、質の高い送り出し機関を監理団体が選べるようにする。また、MOCに基づく協議の際に、相手国に対して他国の送り出し制度の実情等の情報提供を行うなどして、送り出し国間の競争を促進する
  3. 情報の公開等を通じて、外国人が来日前に負担する手数料の透明化を図り、受け入れ企業等が一定の来日前手数料を負担する仕組みを導入し、外国人の負担軽減を図る

現在の技能実習制度の問題点の一つとして、日本への送り出しの際に、自国の送り出し機関への支払いで借金を背負って来日する外国人の問題があります。この費用の透明化により少しでも働く外国人の負担を減らそうとする考えです。

日本語能力の向上方策

  1. 新たな制度及び特定技能制度において、以下の試験への合格等が就労開始や特定技能1号、2号への変更要件となることにより、受け入れ企業による支援を促進し、継続的な学習による段階的な日本語能力向上を図る
    • 就労開始前(新たな制度)
      • 日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)への合格又は入国直後の認定日本語教育機関等における日本語講習の受講(1年目終了時に試験合格を確認する)
    • 特定技能1号移行時
      • 日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格(ただし、当分の間は当該試験に代えて認定日本語教育機関等における相当な日本語講習の受講をした場合も認める)
    • 特定技能2号移行時
      • 日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)への合格
  2. 日本語教育の適正かつ確実な実施を図るため、認定日本語教育機関や登録日本語教師を活用し、外国人に対する日本語教育の質の向上を図る

今まで技能実習を修了し、特定技能に移行する際には技能実習の修了証が、ある種日本語能力の裏付けを行う役割を担ってきました。しかし、新しい制度では明確にこのレベルと線引きされています。これにより、受け入れ企業が提供すべき育成レベルを明確にした狙いがあります。


まとめ

今回は10月18日に取りまとめられた第12回「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書のたたき台について書いてきました。まだ、これで決定という訳ではなく、あくまでもたたき台としての存在です。実際に各方面から異論が出ている訳で、最終的にまとまるのはもう少し時間が掛かります。

ただ、今回の報告書で出た、転籍を認める点や、日本語試験の合格を次のステップに進むための条件にすること、監理団体への厳格化などは大きく変わることはないのではないかと思います、外国人の負担する手数料などの透明化も、失踪を防ぐ施策の一つとして有効だと思います。しかし、その手数料を企業が一定金額負担するとなった場合、果たしてそこまでして技能実習生を雇いたい企業がいるのかという疑問が生じます。

少なくとも受け入れ企業の育成コストは増えると思いますので、その点をどのように理解を求めていくかが今後の焦点になりそうです。

何かご不明点、ご相談などあればお気軽にお問合せフォームよりお問合せください。


川崎・横浜エリアのビザ申請なら

And-U行政書士事務所

Translate »