コラム:入管の動向~難民該当性判断の手引策定~

難民該当性判断の手引

2023年3月24日に、出入国在留管理庁から【難民該当性判断の手引】が発表されました。これは、難民認定制度の適正化・透明化に向けた取り組みの一環として策定されたもので、難民該当性を判断する際に考慮すべきポイントをまとめたものです。

今回はせっかくなので、難民認定について簡単に説明し、実際の手引についても内容をお話していきたいと思います。


難民認定制度とは

初めに、難民認定について簡単にお話しますと、【自国において、人種や宗教、国籍、その他要因等により迫害される大きな危機があると考えられる外国人の方に対し、外国において当人を難民として認定し在留許可を与えるための制度】の事を言います。

日本の場合には、難民認定が許可されると定住者の在留資格が付与されます。

難民で思い出されるのは、2015年に起きたヨーロッパ難民危機です。ここで細かく説明してしまうと、別の記事になってしまうので行いませんが、戦火から逃れるために他国に逃げてきた難民該当者に混ざり、貧困から逃れるために多くの方がヨーロッパに渡り、結果大混乱に陥ったという出来事です。


難民の定義

話が逸れましたが、難民とはどのような人の事を言うのでしょうか?

出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)の第2条3号に【難民の地位に関する条約(難民条約)の1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう】と日本における難民の定義が書かれています。

難民条約には、【難民とは、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国(無国籍者にあっては常居所国)の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの(無国籍者にあっては常居所国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所国に帰ることを望まないもの)】と定められています。

分かりにくいですよね。つまり自国に帰らされてしまうと、上に挙がっているような要因により身体に大きな危機が迫ることが明らかな人の事を難民と定義しています。


難民条約とは

『難民の地位に関する条約』と『難民の地位に関する議定書』の2つを合わせて難民条約と呼ばれています。日本が批准したのは1981年です。

難民条約の1条に難民の定義に関することが書かれており、A~Fまでの6項で構成されています。

  • 1条A:難民に該当するための要件(該当条項)
  • 2条B:締約国が難民に該当するための地理的制限を付すか否かの宣言に関し
  • 1条C:難民に該当する者について難民条約の適用が停止する場合を規定(終止条項)
  • 1条D~F:1条Aに該当するが、条約の適用を認めない場合の規定(除外条項)

難民該当性判断の手引について

やっと本題ですが、今回策定された【難民該当性判断の手引】には、1条Aの該当条項に関すること、1条Cの終止条項に関すること、1条D~Fの除外条項に関することについて書かれています。

まず、1条Aについては、【迫害】について7つの要件に分けて審査ポイントを併せて書かれています。各項目ごとに内容を記載した上で、審査時の留意点として具体的な状況について説明しています。

  1. 迫害
  2. 迫害主体
  3. 迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖
  4. 迫害理由
  5. 因果関係
  6. 国籍国等の外にいること
  7. 国籍国の保護

1条Cの終止条項については、具体的にどの様な状況下において難民認定を停止するかについて書かれています。これも1~6までの項目があります。

  1. 任意に国籍国の保護を再び受けている場合
  2. 国籍を喪失していたが、任意にこれを回復した場合
  3. 新たな国籍を取得し、かつ、新たな国籍国の保護を受けている場合
  4. 迫害を受けるおそれがあるという恐怖を有するため、定住していた国を離れ又は定住していた国の外にとどまっていたが、当該定住していた国に任意に再び定住するに至った場合
  5. 難民であると認められる根拠となった事由が消滅したため、国籍国の保護を受けることを拒むことができなくなった場合
  6. 国籍を有していない場合において、難民であると認められる根拠となった事由が消滅したため、常居所を有していた国に帰ることができるとき

1条Dは『UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)以外の国連機関の保護又は援助の付与を現に受けている者』について書かれています。現時点においてはパレスチナ難民のみの状況になっています。

1条Eは『居住国の権限ある機関によりその国の国籍を保持することに伴う権利及び義務と同等の権利を有し及び同等の義務を負うと認められる者』について書かれています。元々はドイツ国外に居住していたドイツ人で迫害等の理由によりドイツ国内に戻ったがドイツ国籍を有するに至っていない者、いわゆる民族ドイツ人を想定していましたが、適用対象はこれに限定されるものではありません。

1条Fは『避難国の外で重大な犯罪を行った者等』について書かれています。3つのカテゴリーに分かれています。

  1. 平和に対する犯罪、戦争犯罪及び人道に対する犯罪を行った者
  2. 重大な非政治的犯罪を行った者
  3. 国際連合の目的及び原則に反する行為を行った者

策定により期待される効果

この手引を公表することにより、以下の効果を期待しています。

  • 日本の難民認定制度の透明化、信頼性の向上
  • 職員の適切かつ効率的な審査の実現
  • 申請者側の申し立て内容を整理した上での申請

まとめ

今回は最近公表された【難民該当性判断の手引】について書いていきました。

迫害理由の中に性的マイノリティ、ジェンダーに関する規定があるなど、現代の流れを汲み取ったものになっていると感じました。

当事務所では難民認定申請を行うことは想定していませんので、今まで難民条約などはスルーしていた部分もありました。今回入管が手引策定したことをきっかけに、この様なコラムを書くに至りましたので、勉強になった部分も大いにあります。

報道発表資料を読みたいという方は、こちらのリンクから入管のHPに飛んでください。

「難民該当性判断の手引」の策定について | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)

何かご不明点、ご相談などあればお気軽にお問合せフォームよりお問合せください。


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